小説書評

【小説書評】青春の陰に差す、希望の光を少女は抱く。『青い春を数えて』

書評第11弾。今回ご紹介させていただくのは『青い春を数えて

8月28日(電子版は同月30日)発売と、発売から1週間ほどしか経っていない作品ですね。

現在は単行本とKindle版のみの発売となっており、普段文庫派の方は購入を躊躇されているのでは? と思います。実際私も躊躇しました! でも、同じように購入を検討している方に向け、少しでも参考になればと思い買いました!!

嘘です。読みたかっただけです。

百合かどうかの結論を言うと、私の甘々基準では百合小説です。

だって冬の海に女の子2人で行くとかヤバイでしょ……。

こんな人にオススメ!

  • 等身大の女子高生をメインに据えた話が読みたい
  • 別々の短編だけど、同じキャラクタが出てくる短編集が好き
  • 葛藤や鬱屈した心情を描きながら、最後には希望のある作品が読みたい

あらすじ

青春期。
数えても数えきれない複雑な思い、葛藤を抱え、少女たちは大人になっていく――。

「白線と一歩」……どうしてあの子みたいにうまくできないんだろう。
「赤点と二万」……受験勉強って、不平等だ。
「側転と三夏」……SNS。それが私の居場所だった。
「作戦と四角」……本当の“わたし”って何?
「漠然と五体」……はみ出したくない。でも、たまに息がつまりそうになる。

この痛みは、感情は、“青春”の一言で片づけられない!!

「響け! ユーフォニアム」シリーズ著者、待望の最新刊!
切実でリアルな思いの数々を、5人の女子校生の視点から描いた連作集。

講談社BOOK俱楽部『青い春を数えて』作品紹介より

青春期とはつまり、青年期と同義ですね。14歳から24歳ほどの間を指すようです。

激しい身体的変化が訪れる時期でもあり、一人の人間を形成する重要な期間です。精神的にも不安定になり、焦燥・不安・苛立ちといった鬱屈とした感情に苛まれる時期でもあります。

本作では、そんな心の動きを、5作の短編を通して描写していきます。

内容としては、青春という言葉の「陰」の部分へ焦点を当てているという印象。女子高生の視点を通して物語は進みますが、男性でも共感できる内容になっていると思います。

著者紹介

著者は武田綾乃先生。あらすじにも書いていますが『響け!』シリーズの作者の方ですね。

もはや、百合好きの方には説明不要でしょうか。2018年には『リズと青い鳥』が公開され大きな話題を呼びました。今でもTwitterのTLには『のぞみぞ』のカップリング画像やSSが流れてきますね。

感想

思春期――というより、忠実に言葉を借りるなら『青春期』ですね。

青春期の少女たちが抱く不安・焦燥・苛立ちを描写していきます。

劇的な出来事などない日常であっても、誰しもが、心に鬱屈とした想いを抱くものです。

とても個人的な見解というか、主観的な考えですが、相沢沙呼先生の作品が好きな方にオススメできそうです。逆もまた然りで。

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過去に相沢先生の小説書評も載せてありますので、時間のある方はぜひ。

白線と一歩

放送部の少女たち、その関係を書いた作品になります。

放送部に2人しかいない3年生、部長・有紗と主人公・知咲。知咲は1年生の頃、NHK全国高校放送コンテストで失敗した苦い記憶があった。対して、有紗は優勝。自信をなくした知咲は、有紗に対して劣等感を覚えている。

そんな知咲に、有紗は1年生の面倒を見てほしいと頼む。その1年生とは森唯奈。彼女は極度の人見知りで、友達とも心の距離を置いていて……。

たった2人しかいない3年生、というのが大きいですね。常に相手と自分を比較するしかない。否が応でも意識してしまいます。

相手のことが好きだからこそ、対等でありたい。この気持ちは厄介です。相手と差が開くほどに嫉妬し、好意は蝕まれて悪意に変わっていきますからね。

少女たちの関係としては、流石『響け!』の作者さんだなあ、という感じ。

部活での同級生に対する嫉妬を書いたり、立場が違うからこそ助け合える先輩と後輩を書いたり。部活動ならではの関係性を書くのが上手いと思いました。

想いを吐露しあう女の子たち。びしょ濡れになりながら叫ぶ女の子たち。まさに青春期。

 

赤点と二万

優等生の男の子が赤点をとった。その男の子と女の子が、補習を通して言葉や思想を交わし合う。百合ではないです。

辻脇菜奈は頭が悪いわけじゃない。でも、生物は勉強しない。だって入試に不要な科目だから。貴重な時間を生物の勉強になんて割いていられないのだ。だから今回も赤点で、補習は決定事項。

そんな中、クラスに激震が走る。1年生から模試で1位、有名大学の判定は軒並みA。漫画のキャラみたいな優秀な生徒長谷部君が、生物で赤点を取った。

その事情も知らぬまま、菜奈は長谷部と一緒に補習を受けることになって……。

受験勉強は不平等、という話。

私は大学受験を経験していない人間なので、細かいコト判らないんですよね。模試って受けたことないですし、判定がどうの、という話も無縁で生きてきました。でも、学位は取っています。就活は推薦で終えました。

不平等ですねえ。

世の中には一所懸命勉強して大学を受験する人もいれば、特に勉強しないまま学士を取る人だっているんです。バカな高校でも1位を取れば、賢い大学の推薦資格を取得することもできるんです。確かに不平等。でもそれもシステム。納得できなくても、納得するしかない。

ここで重要なのは、他人と比較して損得勘定をしてる、ということです。

本来、どうでもいいハズなんですよ。あの子は3科目しか受験しないからずるい、とか。あの子はバカなのに推薦貰えるからずるい、とか。でも、考えてしまうのが人間で、考えてしまうからこそ、人間なんですね。

その気持ちは決して醜いものじゃない――それを教えてくれる1作です。

 

側転と三夏

姉妹のお話ですね。あ、私はこの話が1番好きです。

料理部の真綾は、手製の料理をSNSにアップするのが日課。そして、その画像に対して評価を貰えることが喜びだった。

真綾は器用で何事もそつなくこなせる。そんな彼女の姉、咲綾は運動神経も悪く手先も不器用。だが、彼女には愛嬌があった。彼女の作ったケーキは形が悪くマズイけれど、SNSにアップするとみんな面白がる。彼女は側転を失敗したけれど、だからみんなの記憶に残っている。

真綾は綺麗なケーキを作ることができる。側転だって失敗しなかった。完璧にこなせる自分より、姉の方が人々に愛される……。

SNSで自分の成果を発表し、色々な反応を貰えるのがうれしかった真綾。そんな中、何気なく姉の失敗したカップケーキを載せたところ、大きな反響を呼びます。

「バズる」ってやつですね。

確かにSNSを見ていると「ヘンテコなモノ」が注目を集めますよね。そんな今時の事情をエッセンスとして加えてきた本作は、「その気持ち、判るなあ」と読者に思わせます。

愛嬌のある人間ってズルイですよね。愛嬌さえあれば生きていけるんですよ、極論。

勉強も運動もできないけど、愛嬌がメチャクチャあって上手く社会で生きている友人がいます。でも、ソイツのこと妬ましいとかは思わないんです。

何故かって、愛嬌があるから。やっぱり可愛らしく見えちゃう。

愛嬌に負けちゃうんですよね。関係なさそうな話してますけど、『側転と三夏』も愛嬌に負ける、という話です。読んでいただけたら判ると思います。

 

作戦と四角

眼鏡教の布教活動に勤しむ泉さんのお話。

新学期デビュー。泉と同じ吹奏楽部の柿本すみれは、二学期を機に眼鏡を外し、コンタクトデビューした。級友からの評判は上々。が、眼鏡好きの泉としては面白くなかった。

そんな泉は、すみれに誘われて一緒に帰ることになる。途中、すみれと別れ1人になった泉に、電車の中で話しかけてきた少女がいた。少女の名は清水。

たった一度の出会いの中で、少女たちは言葉を交わし合う。

「自分の性別が女子でも男子でもしっくりこない」泉を主人公とした話。

眼鏡は外した方が可愛い、というのが世間のイメージですよね。

でも泉は眼鏡好きなんです。「眼鏡外した方が良いのに」なんて言われると腹が立ちます。掛けたくて掛けている人もいます。気を付けましょう。

この物語は「型に嵌めること」の傲慢さ、罪深さを書いています。

女だから~、男だから~、なんて考えはよろしくないです。

プリキュアだって言ってます。「男の子だってお姫様になれる」って。「女の子だってヒーローになれる」を体現してきたプリキュアが言ってくれると頼もしいです。

型に嵌めるのは、ある面ではラクです。嵌める側は思考を放棄すればいい。型に嵌めて、レッテルをペタリと張り付けて、はい完成。

人間はそうもいきません。無理やり嵌められると窮屈で苦しいですもんね。

 

漠然と五体

真面目な生徒×不真面目な生徒の王道カップリングや!

等身大の「真面目な高校生」を描ききった先生の筆力にアッパレです。

物凄く感情移入してしまいました。

真面目な生徒・細谷は登校が苦しくなって学校をサボる。そんな彼女は、電車の中で清水という生徒と遭遇する。彼女は不良として有名な生徒で、細谷とは真逆の少女だった。

清水の誘いを断ることもできず、2人は電車に乗って遠くへ向かう。それは行き先のない、小さな旅だった。でも少女にとって、大きすぎる旅になる。

細谷は真面目です。真面目で、周囲に合わせようとする。

清水は違う。不良で、だけど自分の欲求を持っていて、物怖じしません。だからこそ、細谷が内に秘めた憂鬱や葛藤を引き出すことができます。

細谷の葛藤ってね、本当にくだらない話です。

宿題忘れたから。だから学校に行きたくない。

くだらないでしょ? でもね、本人にとっては一大事。冷や汗タラタラで、心臓はバクバク鳴って、上手く息も吸えないくらいなんです。

こういう描写ずるいですね。判っちゃいますもん。他人からすればどうだっていいことも、本人の中では心を苛む重大な事柄なんです。苦しいし、辛いし、悲しいこと。

そういう気持ち、覚えてますか?

例えば小学校って、運動ができる人が英雄でしたよね。運動音痴からすれば体育は地獄です。大人からしたら「そんな体育くらいで」と思うものですけれど。

この小説が思い出させてくれるのは、そういった感情です。

忘れてしまったもの。けれど確かに、私たちが感じてきたもの。

まとめ

同じ場所を舞台にした短編集って好きなんですよね。別作品で出てきたキャラが、別の視点だとどう見えるか、ということが判って楽しいです。

以上、短編5作品の紹介でした。うち4作は少女×少女の話ということで、恋愛的な意味での百合を求める方には違うかもしれませんが、百合作品として紹介させていただきました。

 

ABOUT ME
波沢るい
働き始めて4ヶ月。適応障害を告知され休職中。どうせなら空いた時間でブログ作るかァ! と始めた次第。百合を読み、百合小説を書きます。