小説書評

【百合書評】ありふれた風景画

百合書評第4弾。今回ご紹介させていただくのは『ありふれた風景画』。

あさのあつこ先生の著書であり、百合好きの界隈でも有名な百合小説です。

あまりにもベタ過ぎる作品の紹介? いやいや、王道は外せないでしょう!

ということで、あらすじです。

地方都市にある高校で、ウリをやっているという噂のために絡まれていた琉璃を、偶然助けた上級生の周子。彼女もまた特殊な能力を持っているという噂により、周囲から浮いた存在だった。親、姉妹、異性……気高くもあり、脆くもあり、不器用でまっすぐに生きる十代の出会いと別れを瑞々しく描いた傑作青春小説。

文春文庫:『ありふれた風景画』あらすじより引用

著者はあさのあつこ先生。『バッテリー』や『ガールズ・ブルー』など、青春小説の印象が強いですね。普段読書をされない方にも読み易い文章だと思います。しかし、少女の心情を痛々しいほど鮮明に描写する文体は、流石の一言。

本作は、女生徒に絡まれている琉璃を周子が偶然救う、という場面から始まる。まさにガール・ミーツ・ガールと呼ぶべきスタート。少女漫画であればクラスのイケメン男子が登場する場面ですが、この小説は違います。琉璃と同じように孤立した周子が、意図したわけではなく、結果的に彼女を救います。

それから周子に対し、琉璃が恋心を抱くまでにそう時間は掛かりません。加えて、同性愛に対する大きな葛藤も描写されません。

なんか、マジで惚れちゃうかもしれない。心の内で呟き、それってヤバイよなあと続ける。同性に一目惚れなんてヤバ過ぎるぞ、琉璃。

『ありふれた風景画』p.41より引用

琉璃の心情描写はこの程度。このシーンに至るまで、出会ってから一日たりとも経過していないのですが、既に琉璃は心を惹かれています。他人に関心を抱かなかった琉璃にとっては巨大すぎる心の揺さぶり。

少女は、少女に恋をする困惑や葛藤より、誰かを好きになる幸福を味わいます。

ああ、なんて素敵なことなのか。恋をして、琉璃の世界は変わっていく。停滞していた少女の世界は、少女との出会いによって加速していきます。

恋をして、世界が変わる。

10代の少年少女には度々起こる現象でしょう。例えば好きな人がいるから学校に行くのが楽しいとか、誰しもが経験したことかと。無論、10代でなくともそうです。誰もが共感できる感覚であり、いわばありふれた感覚ともいえます。

そう、この小説には特別なことが起きるわけではありません。タイムリープするわけでもない。事件に関わって、真犯人を探すために奔走するわけでもない。

移ろいゆく季節の中で、少女2人がひたすらに恋をします。古今東西あらゆる文学においても、描写される琉璃の感情は決して特別なものではありません。この物語の終盤、琉璃が辿り着く感覚は、あまりにもありふれたもの。

何気ない会話だ。重みも深みもない。さらさらと唇からこぼれる何ということもない言葉たち。それが楽しい。快感に近く、琉璃の心を躍動させる。

『ありふれた風景画』p259より引用

しかしこれこそ、私たちの胸を痛いほど焦がす、青春の姿なのでしょう。

ABOUT ME
波沢るい
働き始めて4ヶ月。適応障害を告知され休職中。どうせなら空いた時間でブログ作るかァ! と始めた次第。百合を読み、百合小説を書きます。