小説書評

【百合書評】あまいゆびさき

百合書評第7弾。今回ご紹介させていただくのは、百合小説の中でも定番中の定番王道中の王道、これを無しには語れない! 『あまいゆびさき』です。

よく名前を耳にするけど、どんな小説なの? という方の参考になれば嬉しいです。

あらすじ

団地の隅のシロツメクサの野原で幼い少女たちは出会った。親が過保護すぎる純粋な真淳と、親にネグレクトされる大人びた照乃。正反対の環境で育った二人はたちまち惹かれあう。照乃が真淳に教えた秘密の遊びは二人の絆を強めたが、まもなく遊びが親に発覚して二人は引き離され……すれ違いと邂逅を繰り返し、傷つけ合いながらも互いを全てで求め合う少女たち。複雑で純粋な恋心と大人になるまでの軌跡を描く傑作恋愛小説

早河書房:『あまいゆびさき』あらすじより引用

ポイントは幼い少女たちは出会ったという点と大人になるまでの軌跡を描くという部分。

詰まる所、本作は少女たちの出会いから、大人になるまでの過程を描きます。中高生に焦点を当てた小説や、社会人同士の複雑な関係を描く小説は多いですが、少女2人の関係を幼少時代から大人になるまでを描き切るという小説はそう多くありません。

少女2人の関係を見届けたい、という方には特にオススメです。

 

著者紹介

宮木あや子先生の著作を初めて紹介するということで、著者紹介をさせていただきます。

2006年第5回<女による女のためのR-18文学賞>大賞・読者賞を『花宵道中』でダブル受賞し、デビュー。『雨の塔』『群青』『太陽の庭』『春狂い』『官能と少女』(ハヤカワ文庫JA)『帝国の女』『喉の奥なら傷ついてもばれない』など多くの著作がある。

早河書房:『あまいゆびさき』本そで著者紹介より引用

R-18文学賞ということで、小説の中にも官能的な表現が随所に見られます。ものすごいストレートに言うとエロティック、です。と言っても下品な雰囲気は醸さず、甘く恍惚とするような美しい描写がなされます。恐らくですが、”男性を興奮させるための描写ではないから”そう感じるのかもしれませんね。

ちなみに、2016年にドラマ化された『校閲ガール』も宮木先生の作品です。上記でオススメは『官能と少女』もオススメ。オススメと言いつつ、色々な意味でえげつない小説ですので、ご覚悟を。

 

感想

生々しいからこそ美しい

あらすじには「親が過保護すぎる純粋な真淳」と「親にネグレクトされる大人びた照乃」とあります。(ちなみに、ネグレクトとは育児放棄の意)。行き過ぎた愛情も少女の身体には毒となり、育児放棄は言うまでもありません。正反対の環境に在るからこそ、少女たちは互いに惹きつかれていきます。

あらすじにおける「秘密の遊び」とは接吻のこと。年齢にして6歳ほどの少女たちが、口づけの喜びを知ります。それもただ唇をくっつけるモノとは違う。

照乃ちゃんは顔を近づけてきて、自分の舌を、私の舌に擦り付けた。

『あまいゆびさき』p.13より引用

こういった官能的な描写が物語の随所に見られます。少女2人が互いの気持ちを確かめ、伝え合い、絆を深めるための行為として描かれていきます。余談ですが、職場や電車内で読むにはちょっぴり強めの刺激です。

相手を想う、ただそれだけ

2人は出会い、すれ違い、そして再会します。順風満帆な場面など全くと言っていいほど訪れず、残酷なまでに運命の荒波に翻弄されていきます。

それでも、彼女たちは抗い、向き合い、前に進みます。

親が決めたこと。世間が決めたこと。そして自分たちの性。とくに、本作では同性愛や性別違和、無性愛に悩む人々が描かれます。そして、そんな彼女たちが懸命に進んでいく。

別に格好つけてるわけではないんですよね。ただひたすらに、好きな人のことを想い、前に進む。

それだけなんです。ただ、それだけをとことん描くのが、本作だと思うんです。

物語の行先は

少女2人の出会いで始まり、少女2人の別れで話は動き、そして少女2人は再会します。

甘く蕩けるような百合ではありません。辛くて、苦しくて、酸っぱくて、苦い。だからこそ、少女たちは自らの手で未来を掴みにいきます。そんな物語の結末を、是非見届けていただけたらと思います。

最後に、最も強く心に残った一文を。

そうだよ、大丈夫。ふたりしかいないけれど、ぜったいに大丈夫。

『あまいゆびさき』p.246より引用

以上、波沢でした。

ABOUT ME
波沢るい
働き始めて4ヶ月。適応障害を告知され休職中。どうせなら空いた時間でブログ作るかァ! と始めた次第。百合を読み、百合小説を書きます。