小説書評

【百合書評】だからハルキはこの世界から消えることにした

百合書評第8弾。

今回ご紹介させていただくのは『だからハルキはこの世界から消えることにした』という本。

百合要素が出てくるのはラスト40ページくらいからですので、「終わり百合なら総て良し!」という方以外には厳しいかもしれませんね。また、主人公は作中で男と付き合う場面もありますので、その辺りが苦手な方もご注意ください。

その男とは20ページくらいで別れるので問題ないですけどね!

あらすじ

性同一性障害まではいかないが、「女子」としての自分の性別に違和感を覚えていた春木あみ。居場所がない、誰も自分なんか理解してくれない…そう思いながら夢だった漫画家にもなれず26歳になってしまった彼女は、もう死ぬこと以外に希望を見出せなくなっていた。そんな時ふと目に飛び込んできたのは、中学時代の同級生シヤが光り輝く存在としてステージで歌う姿。あみは激しい嫉妬を抱きながら、次々と彼のCDやDVDを買い漁り、ファンでもないのにライブにまで行くことにした。そうすることで憎悪に背中を押され、死ぬことができると思ったからだ。絶望の淵に堕ちた女性の痛々しいまでの心情を描ききった、再生の物語。

リンダパブリッシャーズの本:

『だからハルキはこの世界から消えることにした』あらすじより引用

主人公は春木あみ。自分の性別に違和感を覚えている彼女は、夢だった漫画家にもなれず、アルバイト生活を続けている。そんな中、中学時代に同級生だったシヤが若者に人気のバンド「WAVEキュンとす」のボーカルとして活躍していることを知る。あみが求めているモノをすべて有しているシヤに嫉妬を覚えながらも、なぜか彼を追いかける。というものです。

この部分だけ抽出すると、あみがシヤと恋愛関係に発展して終わりそうですが……百合書評で紹介する以上、そういう展開にはなっていません。あまり言いすぎるとネタバレになるので避けますが、百合エンドです。

著者紹介

著者は紺野理々先生になります。

1987年生まれの女性で、『西野に世界は無理だろう』で第1回日本エンタメ小説大賞優秀賞を受賞してデビューされています。他には児童向け小説を書いておられるようで、この作風の方が児童向け小説……と考えると、どのような内容なのか気になりますね。

というのも、本作自体は全体的に鬱々としていています。主人公あみの苦しんでいる状況を、輝かしいシヤと対比して描くため当然です。百合関係なく好きな作品なので、『西野に世界は無理だろう』も読んでみたいと思っています。

また、あみのキャラクタは紺野さん自身を投影している部分もあるのかな、と思いました。夢を追っているという点。あみが自身の漫画に自己投影をしている点。一番は26歳という部分。紺野さんのデビュー作『西野に世界は無理だろう』は2013年の作品で、当時の紺野さんも26歳という年齢になりますからね。

感想

百合に関係ない感想が多めですが、まず一番言いたいこと。

今の私にめっちゃ刺さってくるんですよ、この作品

私は現在適応障害で休職中です。おそらく退職することになる、と考えています。そうなったとき、私はハローワークに行くかもしれません。主人公あみも、26歳で会社(アルバイト)をクビになり、再びハローワークに行って職を探します。

私は小説を書いています。あみは漫画を描いています。彼女は面接の際、「何か自慢できることはありますか?」と問われても「漫画を描いています」とは言えません。そういえば私も、学生時代の大半を費やしたにも関わらず、就職活動では「小説を書いています」とは言えませんでしたね。今から同じ職場で働く、という人間には知られたくないですし。

あみは決して、「がんばったこと」「自慢できること」がまったくない、というわけではない。

(でも、漫画描くのがんばりました、とか言うわけにもいかないしな)

だけど他に、何もない。

ぜんぶそこに注ぎ込んでしまったから。

『だからハルキはこの世界から消えることにした』p.201より引用

あみにとっては漫画を描くことが全て、という気持ちも判ります。働く時間があるなら小説書きたいですもん。安定とかいらないし、大金もいらないし、昇進とかも興味ない。ただ、小説書いて生きていければ概ね満足できるんですけどね。

なんて自分語りをしていても仕方ないので、次の感想を。

”成功者への嫉妬”に共感

成功を収めている輝かしいシヤに対し、あみは激しい嫉妬を抱きます。そんな彼女のとった行動は彼のCDやDVDを買い漁り、ファンクラブに入会、果てにはライブに足を運ぶというもの。

一見すると矛盾している行動です。でもあみは矛盾を理解していて、理解しているからこそ、彼らの姿を見て絶望を深めることで死の道を進もうとします。

若くデビューした作家さんに嫉妬して荒探ししたくなる、というのと似ているかもしれません。やればやるほど自分が苦しいだけですけれど、やってしまうのが悲しき人間の性。

ラスト40ページ、百合

で、どこが百合なの? という話。

ココ、詳しく説明すると完全にネタバレになってしまうのですよ。難しい。ラスト40ページ、とか言っている時点でまる判りなのですが。

あらすじに書いてあるように、この物語は再生の物語です。あることがキッカケになって、あみは最後まで生きます。そして彼女が出会ったのは、過去の自分と同じように苦しむ少女でした。リストカット、拒食症、不登校……様々な重荷を背負った少女に、彼女はそっと寄り添います。

心のキズは消えないと思います。人の心を食器に例えるなら、一度崩れたメンタルは割れた食器をくっつけた状態だと考えています。ですがそれは、決して悪いことだけではないのかもしれません。

私自身、適応障害を患ってはじめて、心の苦しみ・痛みに目を向けることができました。今まで見えていなかったモノ、見ていなかったモノも目に映るようになったと思います。

以上、百合好きだけでなく、多くを抱えて現代を生きる人々にすすめたい一冊『だからハルキはこの世界から消えることにした』の書評でした。

現在Amazonで新品の取り扱いがされていないようですね。書店ではあるのでしょうか? 見かけた方は教えてくださると嬉しいです。
ABOUT ME
波沢るい
働き始めて4ヶ月。適応障害を告知され休職中。どうせなら空いた時間でブログ作るかァ! と始めた次第。百合を読み、百合小説を書きます。