小説書評

【百合書評】本屋さんのダイアナ

百合書評第9弾。今回ご紹介させていただくのは『本屋さんのダイアナ』

今回は後述の事情により、記事内にネタバレを含みます

 

途中でかなり重く苦しいシーンがあるため百合小説として紹介するのを迷った1冊です。結論を言ってしまうと、男が強引に女の人を……というシーンが存在します。

こんな人にオススメ!

  • 少女時代から大人になるまでの、少女2人の葛藤や成長を見守りたい
  • 様々な困難、紆余曲折を経て少女たちが再会する物語を読みたい
  • 主人公とヒロインが男と恋愛をするシーンが入っていても大丈夫
あらすじ

私の名は、大穴(ダイアナ)。おかしな名前も、キャバクラ勤めの母が染めた金髪も、はしばみ色の瞳も大嫌い。けれ ど、小学三年生で出会った彩子がそのすべてを褒めてくれた――。正反対の二人だったが、共通点は本が大好きなこと。地元の公立と名門私立、中学で離れても 心はひとつと信じていたのに、思いがけない別れ道が……。少女から大人に変わる十余年を描く、最強のガール・ミーツ・ガール小説。

新潮文庫:『本屋さんのダイアナ』あらすじより引用

優しい父と母を持ち、温かな家庭で育ってきた美しい黒髪の少女彩子。父親がおらず、キャバクラ勤めの母と2人暮らしをしている派手な容姿の少女ダイアナ。

正反対の2人は、互いに持っていないものを羨み、惹かれ合い、共に時間を過ごしていきます。

内容や展開としては『あまいゆびさき』に近いものがあります。真逆だからこそ惹かれ合い、しかしボタンを掛け違えるようにすれ違い、別れ、やがて大人になって再会を果たすというもの。

ガール・ミーツ・ガールの謳い文句通り、物語は少女たちの出会いから展開されていきます。

『あまいゆびさき』の書評はこちら

読書好きな女の子たちということで、物語の端々には『赤毛のアン』など少女小説が多くでてきます。ちなみに私は『赤毛のアン』は(恥ずかしながら)未読ですが楽しめましたよ!

 

著者紹介

著者は柚木麻子さん。『フォーゲットミー、ノットブルー』でオール讀物新人賞を受賞、2010年にデビューされた女性です。

有名な作品としては『ランチのアッコちゃん』『ナイルパーチの女子会』があります。『ランチのアッコちゃん』は非常に読みやすい文体になっており、読後感も爽やかなので、朝の通勤時に読むのがオススメです。

『ナイルパーチ』の女子会は逆に、読むと苦々しい感情が広がる1冊。ドロドロとした女性たちの感情をこれでもかと描き、しんどいのにページを捲ってしまうという魔力を持っています。

そして本作『本屋さんのダイアナ』は、それらの要素を同時に兼ね備えています。少女小説のような2人の日々や、大人になるにつれて覚える嫉妬や憎悪の感情を、1冊の中で描き切っています。

その分、感情を揺さぶられる幅も強いのですが、これこそ小説の醍醐味ですよね。

 

感想
全6章で少女たちの『紆余曲折』を追いかけられる良さ

第1章は小学3年生時代を、第2章は小学6年生、第3章は中学3年生、第4章は高校3年生、第5章は大学1年生、第6章は大学4年生を描きます。こうして並べてみると、重大な選択を迫られる場面を主に描いていることが判りますね。

小学生(は少しキツイ描写があるから難しいですが)も中学生も高校生も大学生も就活生も母親も父親も、皆がどこかで、誰かに感情移入できると思います。

その分、悲劇が起こる第5章はめちゃくちゃしんどいですけれど……。

 

呪縛を打ち破る物語

ダイアナは彩子を羨みます。彩子の父は読書好きな出版社の編集者で、母は優しく家庭的な料理教室を開く主婦。彩子自身も清楚で美しい黒髪の美少女。それに比べ、彼女はキャバ嬢の娘で髪も金髪に染められてます。

日本人でありながらダイアナ。しかも漢字は”大きい穴”と書いて大穴(ダイアナ)です。

そりゃ嫌になりますよ。彼女が15歳になったら名前を変えてやる、と強く決意する理由も判るってもんです。彩子のような家庭に嫉妬するのも当然。でも同時に、彩子もダイアナを羨む。

彩子は少々過保護に育てられているんですよね。ゲームをしちゃダメとか、ファーストフードはダメとか。

それに対しダイアナの家はマクドが当たり前みたいな環境なので、小学生にとってはあの濃ゆ~い味付けは羨望の的です。

嫉妬と憧憬は紙一重。相手の存在を意識すると、一層自分という存在が浮き上がるもの。2人の憧れは別の道を歩ませ、ダイアナはひたむきに努力して夢だった書店員の道へ。

母子家庭のダイアナは、結果的に強い意志を持って、葛藤を抱えながらも困難を乗り越えていく。自分の名前を受け入れ、自分の両親を受け入れ、自分自身に掛けていた呪縛から解き放たれる。彼女は懸命に生きていて、ダイアナのシーンは読者ながら惚れ惚れとします。

 

百合好き的には、彩子の行く先はチョット刺激が強い

しかし、恵まれた環境にあった彩子は、悪いことへの憧れも抱きます。それこそ、彼女がダイアナに惹かれた理由の一端でもありました。

親を困らせたり、誰かを傷つけたりしたいわけではない。でも、大人が眉をひそめるような悪いことをほんの少しだけこの体に取り込みたい。

本屋さんのダイアナp.192ページより引用

結果、彼女は大学一年生で、弱い意志も影響して強引に肉体関係を結ばれます。そして彼女は以後3年間、その男と付き合うことになります。それは恋人同士であれば、あの一夜の出来事は強姦ではなく合意によるものだった、と自分を納得させるため。これが彼女の呪縛。

正直言って、彩子のシーンは苛々・悶々します。環境に甘えて、自分の意思を持たずに流されて、それでいて正当化するために必死になって。でもそれが妙に生々しい人間らしさを描いていて、柚木先生の描く女性ここにアリ、と唸ってしまうのもまた事実。

彩子が最後にどういう選択をするのか、という面にも注目です。

ただ、個人的にはこのシーンはキツ過ぎる、という印象もあります。現実でも問題となっている話ですが、ガール・ミーツ・ガールを謳う小説でそこまでするか!? と驚いたのが本音だったり。

 

赤毛のアンを読んでから

読みたいですね。やはり”アンとダイアナ””彩子とダイアナ”という関係を意識しながら読むと面白いようです。読書好きなら読んでて当然! みたいなところもありますしね。

さて、少し長くなってしまいましたのでこのあたりで。少しキツイ描写もあるということで、今回は内容に踏み込んで感想を書いてみました。

何にせよ、気持ちを強く揺すられるのは間違いないこの1冊。ぜひ、柚木先生の描く女性を体感してください。

 

 

ABOUT ME
波沢るい
働き始めて4ヶ月。適応障害を告知され休職中。どうせなら空いた時間でブログ作るかァ! と始めた次第。百合を読み、百合小説を書きます。